「自分軸で生きる」 

誰だって自分を知る旅の途中 だからこそ自分を知ることの楽しさを伝えるブログ

29回グロースセミナー最終日

東京では早朝から30度を超えるような暑さの中、士幌高原の朝は気温9度。

 

7時に起床し、朝食をとってから部屋の片づけや清掃をする。

 

10時30分にはこのヌプカを出発しなければならない。朝から忙しい。

 

ロッジ前に荷物出しを終えて、9時30分に高原の少し高台で集合する。

ここで、最後の実習「ミドルネームの宣言」をする。

 

ミドルネームは、苗字と名前の間に、自分の夢を実現するために大事な言葉を入れて宣言する実習。

 

自信

本気

あきらめない

全力

信じる

 

こんな言葉をミドルネームに選ぶ子どもが多い。

士幌の町を見下ろす高原から大声で宣言するのは気持ちいい。

 

ミドルネームを考える時間、そしてそれを全員が宣言する時間を考えると、ぎりぎり。

 

9時20分。

ボクが、高台で待ち受けていると、続々と準備を終えた子どもたちが上がってくる。

 

ところが、はるかロッジ周辺でリーダーたちが集まっている。

スタッフに様子を見に行ってもらうと、

「AOTが、ハンカチをなくしたみたいでリーダーたちと荷物の中を探している」という。

 

そういえば、AOTは小さなタオルのハンカチをいつも持っていた。

 

9時25分。

突然、リーダーから、

「みんなー、こっちに降りてきてー、AOTのハンカチがないから、みんなの荷物の中をさがしたいからー」と声がかかる。

 

全員がロッジまで行こうとするところを、すぐに止める。

「ちょっと待った! もう集合時間になるから一旦こちらに集まれ」

 

9時30分を少し回った頃に全員集合。

「リーダー、何が起きているのか教えてくれ」

 

すると、KOGが、

「AOTのハンカチがなくて探していた。」という。

 

AOTは、

「もともとなかったのかもしれないからもう大丈夫です」という。

 

KOGは、

「いや、AOTが持っていたのを僕は見ているから絶対にある。AOTの荷物の中にはなかったから、誰かの荷物に紛れているかもしれないから、探したい」という。

 

時間が、気になるけれども、うやむやにはできない。

「そうか、KOGは、探したいんだね?」

「はい」

 

AOTは「もういいです。大丈夫ですから」と何度も言う。

 

「大丈夫じゃないよ、ちゃんと探さなきゃだめだよ」と言う声がかかる。

 

他のリーダーは?と聞くと

KICは、

「全員の荷物を探すのは大変だから、AOTの近くにいた人の荷物を探せばいいと思う」

MIKも、同意見。

 

YUTは、

「今は探す時間もないし、家帰ってからでいいんじゃね?」と、合理的な意見を出す。

 

当の本人は、探さなくてもいいと言う。

リーダーたちの意見は、それぞれ。

 

そして現実はこのことを話しあっている時間があまりない。

 

「よし、整理しよう、KOGは、探したいんだね?それはどうして?」

すると、

「そのハンカチを持っているのを確かに満たし、絶対にあるんだから探したい」という。

 

リーダーたちの意見は、それぞれにAOTへの思いに溢れている。

「まぁ、まぁ、そこんところはいいんじゃないの?AOTもいいって言ってるし、ハンカチ程度の事なんだから」

と済ませることは出来るんだけれども、グロースでは、こういうことが起きたときこそ子どもたちにとっての大事な時間になる。

 

みなさんなら、どうするでしょうね?

 

その時のボクは、ひとりひとりの意見を聞き、ひとりひとりの意見に共感した。

リーダーたちは、それぞれ自分の考えを言い、その考えは、AOTを大切に思う気持ちが表れている。

 

誰の意見が正しくて、誰の考えが間違えている、なんてことは全くない。

こういう時に大事なのは、それぞれが、自分の考えをきちんと表明したこと。

だからこそボクには、それを判断することはできない。

できることは、それぞれの意見を尊重することだけ。

 

KOG、KIC、MIK、YUT大事な意見をありがとう。ただ、残念だけれども、残された時間は少ない。この大事なことに簡単に結論を出すことは出来ないから、いったんしばしばに預からせてくれるか?」

 

うなづくリーダーたち。

 

「AOT、お前のハンカチのために、時間のない中でこんなに真剣にかかわってくれてるぞ。みんなになんか、言う事はないか?」

 

「ハンカチは持ってたのかどうかわかんないです。みんなで探してくれて嬉しいです。みんなも頑張ってください。

 

???? このとんちんかんな応答がAOTのユニークなところ。

結構緊張した場面で、全体を一気に和ませてくれる。

つい「おいおい、お前のことだよ頑張るのは」と突っ込みを入れたくなるところだけれど、全員大爆笑。

 

一旦このことを完了して、大急ぎで、ミドルネームの準備に入る。

グループごとに、決まったミドルネームを宣言していく。

 

大声を出せる子もいれば、声を張りあげることの出来ない子どももいる。それでも順調に進んでいた、はずなのだけれども、CHRのところで、、、、止まってしまった。

あの、MTBの階段チャレンジで、なかなか踏み出せなかったCHR。

 

元々言葉は少ない。

宣言の場所に立ったものの、ずっと居心地の悪そうな様子で、宣言をしない。

しばらく待ってから、

「CHR、ミドルネームは決まってるのか?」

と聞くと、まだ決まっていないという。

 

「そうか、ミドルネームの宣言はしたいのか?」と聞くと、ゆっくりとうなづく。

 

「じゃぁ、決めて宣言しよう」とうながすものの、いくら待っても黙っている。

 

CHRは、ボクとはほとんど話さない。

けれども、グループの子ども同士や、サポーターに笑顔で話し込んでいる姿を何度も見てきた。

だからCHRには間違いなく表現する力はある。

でも、それまでの人生で、何かを伝えることをやめなければならなくなってしまった「何か」があったにちがいない。

 

過去の自分に囚われてしまうことは、誰にだってよくあること。

そのことで、つい

臆病になったり、

人を信じなくなったり、

弱気になったり、

ネガティブになったりする。

 

自己肯定感がなくなってしまう。

そしてそんな自分を本当の自分だと思ってしまう。

そんなはずはないのに。

 

CHRはまだ中学1年生だ。

いくらだって、新しい自分を生きることができる。

いや、もともとの自分を取り戻すことができる。

 

MTBのときに、CHRは、新しい自分に会えただろ?今もそうだ。一歩踏み出して、また新しい自分に会ってみよう。しばしばがアイディアを出すから選ぶっていのはどうだ?」

 

CHRが小さくうなづく。

 

〇〇自分を信じるCHR

もうひとつは、

〇〇一歩踏み出すCHR

 

どうだ?

 

しばらくの沈黙ののちCHRは、小さな声で、

一歩踏み出す、を選んだ。

 

よし、それを宣言しよう。

 

このやり取り、気づいたらずいぶん長くやっていた。

 

その間、ボクとCHRのやりとりは、全く聞こえていなかったにもかかわらず、全員ずっとこのやり取りを見守っていた。

 

全員が、こういった瞬間を大事にしているし、

全員が、それを自分のことのように受け止めている。

 

CHRは、小さな声で、宣言した。

 

CHRが、勇気をもって一歩踏み出したことに、ボクはとても心動かされた。

 

CHRの宣言後、イントラ、サポーター、そしてボクも宣言をして、大急ぎでバスに乗る。

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宣言したミドルネームを最後にもう一度全員で。

ロッジのスタッフの皆さんに手を振りながら、ヌプカを後にする。

あわただしくも、充実した5日間だった。

 

帰りのバスの中では、毎年恒例?の忘れ物の入った紙袋が置いてある。

名前が書いていない下着、タオル、ジャージや時には靴も。

 

袋の中を見ると「うん?」

 

「忘れ物があります!さてだれのかな?」

と、ボクが取り出したのは、あの、ハンカチ。

 

事情を察した全員が、大爆笑。

そう、AOTの、あのハンカチだ。

それだけじゃない。

ADIDASのソックス、タオル、ジャージ、次々と出てくるものはほとんどAOTのものだった。

 

ちゃんと、君は、みんなを笑顔でつなげてくれる。

楽しさの源だ!

 

バスの中は、5日間で子どもたちが作り上げた、あたたかで安心で、そして飛び切りの楽しさであふれている。

 

この帰りのバスの中で、うたた寝をするのが、ボクにとっての至福の時間だ。

 

29回目のグロースが終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

29回グロースセミナー4日目その2

夕暮れの中、ラストイヤーの3人が点火して始まったキャンプファイヤー

 

グロースセミナーでは、最終日の夜に、4日間を振り返る大事な完了の時間を迎える。

 

子どもの頃のキャンプは、大人になっても心に残っている。

 

川遊びをしたり、森を歩いたり、虫取りをしたり、焚き火で飯盒炊爨をしたり。

どんなキャンプでも、子どもたちにとっては楽しい。

 

このグロースも、テント、登山、熱気球、MTB、ナイトハイク、高原実習など、盛りだくさんのプログラムがあるけれど、、、、

実はそれだけでなく、その実習に至るまでの「濃密なそしてとても大事な時間」を子どもたちは過ごしているから、より心に残るのかもしれない。

 

その時々で

自分の気持ちに気づくこと

したいことを自分で決めること

なおかつ、ひとりだけではなく、それを仲間たちと共有すること

上手くいこうが、上手くいくまいが、そんな時間を過ごした自分を認めること

これを繰り返す。

 

このプロセスを、グロースでは「承認する時間」と呼んでいる。

 

誰でも、褒められるのは嬉しい。

でも、それ以上に心に届くのが、「承認」

 

この違いを伝えるのは、簡単ではない。

(だからちょっと宣伝。近々、親ゼミを始めます。)

http://questnet.co.jp/information/14704/

 

「よく頑張ったな、えらいぞ」

「すごいじゃないか、さすがだな」

こういった誉め言葉は嬉しいし、励みにもなる。

 

「頑張っているのを見ていて、嬉しかったよ」

「すごいなぁ君は、、、ボクも君のようになりたくなっちゃったよ」

承認の言葉は、誉め言葉に似ているけれど、少し違う。

伝わることが、何か違う。

心に届く。

 

子どもへの関わりだけでなく、人との関わりでこの「承認」を身につけることは、関係性を劇的に変えていく。

 

キャンプファイヤーでは、イントラが一人ひとりに承認の言葉をかけていく。

黙って聞いている子どもたちの、嬉しそうな顔や、中には涙ぐむ子どももいる。

 

最後に、「〇〇と一緒に、グロースの体験ができて、楽しかったひとぉ!」と聞くと、

闇の中から、「はぁーい!!」とみんなの声が聞こえる。

 

キャンプファイヤの火が、子どもたちのやさしい表情をチラチラと照らしている。

 

そろそろ終えようとした頃に、病院からTKHとSOUが元気に?帰ってきた。

全員から大歓迎を受ける。

大事な仲間が無事に帰って来た喜びがあふれる。

 

薪のはぜる音を聞きながら、全員が一人ひとりに集中してその存在を認めている時間。

子どもたちが、お互いにふれあい、ハグしたり、笑いあっている。

この静かであたたかな時間が、ボクはたまらなく好きだ。

 

今年のグロースも、例年通り、いろいろあった。

なんとか、ここまでこぎつけた。

 

でも、最終日にも、まだまだドラマが待っていたとは、、、、、

 

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29回グロースセミナー4日目その1

快晴が続いていた士幌高原。

 

雲が出ている4日目の朝は、気温が12度。

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東京は早朝から30度を超えていたらしい

今朝は8時起床。

それまでの間に、ボクは、サポーターのフミトとヨウスケと一緒に、高原をロケハンする。

 

今日の午後に行うサポーターゲームの下見。

実は子どもたちは、このサポーターゲームが大好きだ。

毎年、大興奮でチームで必死に取り組む、高原全体を使った、まるでロールプレイングゲームの様。

このゲームの目的は、二つ。

一つは、いつも裏方で支えてくれていたサポーターたちと、子どもたちが直接交流する時間を作ること。

もう一つは、4日間で創り上げて来たチームシップを、彼ら自身が実感すること。

 

午前中は、ネイチャーゲーム。

目隠しイモムシ

目隠しトレイル

スラックライン

高原でのビジョンの絵

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イモムシのように高原を歩き回り、後からどこを歩いたのかを探す。五感を使う

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スラックラインは、最近注目されているスポーツ。簡単には渡れないから子どもたちは何度もチャレンジする

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見渡し限りの景色が自分の国だったとしたら、、、。子どもたちのビジョンが描かれる

子どもたちは、気持ちのいい高原でのびのびと実習を体験していく。

 

そして、昼食の後、いよいよサポーターゲームのスタート。

毎年この問題を考えるのに、夜なべをして(表現が古いけど本当の事)やっている。

この問題を皮切りに、各グループが、サポーターたちが待ち受けている1,2,3,4のポイントに行って、課題を一つ一つクリアしていく。

 

一つクリアするたびに受け取るキーワードが、最終問題となっていて、それに正解するとゴールだ。

 

子どもたちは、ワクワクしながら、時には頭を抱えながら取り組む。

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難題を解く子どもたち

 

全チームがスタートの問題をクリアした後、やんまのSOUがまた発熱している事が判明。

朝の段階では熱も下がっていたのだけれども、やむを得ず彼のチャレンジは中断されて、ロッジで休ませることに。

 

順調に各ポイントをクリアしていく途中で、ひるめしーずのリーダーTHTがMTBで転倒。

かなり深い傷を負っている。

処置が必要と判断し、またまた

「さだー!病院!」

高熱になってしまったSOUも連れていくことに。

さすがにさだ一人では大変なので、今回は同じくサポーターのよりこも付き添ってもらった。

 

これほど病院通いを繰りかえしたグロースはなかった。

 

ボクたちスタッフは6月に、このグロースセミナーに向けてしっかりとグランディングする。

参加目的を明確にし、成長と貢献を宣言する。

その際に、全員で決めた5つの心得がある。

その中の一つ

「安全の源」

 

子どもたちに、その環境を提供しきれなかったことが悔やまれ、反省しきり。

グロースはいつも危険と隣り合わせで、でも、安全を作り出してきたからこそ29年継続してこれた。

だからこそ子どもたちも、ボクたちスタッフも本気のチャレンジができる。

 

発熱も、ケガも、二度と起きないようにと、ボクにあらたな課題が与えられた。

学びは、尽きることがない。

 

5時。

最後の夕食は高原でのバーベキュー。

 

サポーターだけでなく、気球のオヤジ、山下さんも差し入れを持ってきてくれた。

子どもたちは、本当に士幌のオヤジたちに愛されている。

 

日が落ちてくる。

キャンプファイヤーの準備

29回グロースセミナー3日目その6

「恐怖」という感情は、人間が死に直面した時に味わう自然な感情。

 

お父さんが怖い、とか、先生が怖い、という時の感情は、「恐怖」とは区別されている。

 

高いところから下を見下ろした時、

突然大きな音に出くわした時

そして、夜の闇

 

最後の実習は、夜の9時過ぎに始まった。

 

ナイトハイクは、子どもたちに、夜の森を感じてもらうための大事な実習だ。

目に見える大木や、木漏れ日、風に揺らぐ木々の葉を楽しむのも素敵な事。

 

グロースのこの実習の目的は、自分の恐怖心と向き合うこと。

  

子どもたちに、この実習について伝えていくと、毎回の事だけれども、次第に緊張感が高まっていくのを感じる。

 

「森の中を子どもたちだけで歩きます。

歩いて、800歳になるミズナラの木があった場所まで行く。

チームに一本のロープを渡すから、それを右手でしっかりと握る。

そうすると、縦一列になります。

懐中電灯は各チームに1本だけ、先頭のリーダーが持つ。

リーダーになる人は、何度かこの道を歩いた事のある人。

この森には、動物たちがたくさんいる。

クマも住んでいるかもしれない。

動物たちは臆病だから、自分からは襲ってくることはない。

先にスタッフが、大きな音を立てて、動物たちを追い払います。

グループで一つになって、これをやり遂げる。

そしてこの実習は、最後まで全員無言。」

 

「それじゃぁ、この実習をやるのかどうか、グループで話し合って決めてください」

 

緊張感の漂う中、話し合いが始まる。

RNTSOUは、体調が万全ではないので、ボクの判断でロッジで休ませることに。

 

ただ、元気なMSKが、行かないと言い出したのには驚いた。

1年生とはいえ、これまで果敢にチャレンジをし続けてきたMSK

 

MSKの目はとても真剣で、強い意志が伝わってきた。

それでも、ボクは、それを簡単に受け入れることはしない。

 

やらない理由は何か?

できるなら、本当はどうしたいのか?

みんなから助けをもらえるとしたら何が欲しいか?

 

ひとつひとつを確認していく。

 

そして、MSKのチームにも、他のチームにも聞く。

MSKと一緒にこの実習をチャレンジしたい人は?」

ほぼ全員の手が上がる。

 

それでも、MSKの意思は変わらない。

自分の意思で、「やらない」と決めた事を確認し、それを全員で受け入れた。

 

ボクは、単に許可を与えることはしない。

こうしたまどろっこしいプロセスを必ず踏む。

自分で決めるための、環境を常に与える。

グロースを率いるリーダーとして、どちらが良いかどうか、どうするべきなのか、を判断材料にせずに、子ども自身が「どうしたいのか?」を優先する。

「したくない」事ではなく「したいこと」を。

 

結局、MSKは、RNTSOUと3人で「ロッジで待つ」ことを決めた。

 

MTBのコースとして数十年前に整備された森を、一本のロープと懐中電灯ひとつで、歩く。でも、今は手入れもされていないため、MTBのコースとしては使えないほどに、樹木や草が生い茂っている。

 

子どもたちは、そのロープを右手で握り、縦一列になって約2.5キロを無言で歩きます。

スタッフは、各チームの約20メートル後ろから、無灯で追う。

 

夜行性の動物たちは、息をひそめて、ボクたちを見ているに違いない。

その気配をひしひしと感じる。

耳を済ませなくても、すぐ近くを小さな動物がミシミシと足音をさせながら歩く。

闇夜は、ほんの数メートル先も見えなくなるから(極端に言えば、自分の手のひらさえ見えない)、恐怖のイメージが、否が応でも広がる。

 

ただ一言、コワイ。

 

士幌でも、クマは出没する。

毎年、猟友会の方が、何頭かしとめている。

この森の周辺は、広大な牧場。

本来であれば、牧場近くにはクマは来ないはずだが、近年は、この森に巣を作っているという。

 

最初の2チームが。右と左の道に分かれて出発する。

そして、約10分後に、残りの2チーム。

 

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緊張する子どもたち。もちろん、スタッフも。

約2キロほど歩くと、二つの道は合流する。

 

今までにも、道を見失い迷子になったグループはあった。

そして、今回も、一つのチームが道を見失った。

 

ボクに連絡が入る。

「ひるめしーずが、ゴールに来ていません」

 

この瞬間のヒヤッとする感覚を何度味わってきただろうか。

ボクは、一緒にいるグループから離れ、すぐに捜索を始める。

 

携帯電話がなかったころは、やみくもに、ともかく必死に探すしかなかった。

 

なんとか、無事に道を見つけて、全員がゴール。

 

かつて、しっかりと大地に立っていたミズナラの木は、その幹を大地に横たえている。でも、死んだわけではない。

その太い幹からは、新しい木が生え、森を再生していく。

 

23:40 ロッジ到着。

3日目の実習が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

29回グロースセミナー3日目その5

朝昼晩お食事は、通称「めしたき隊」というサポーターたちが担当する。

 

グロース前日に入り、大量の食材を購入し、毎朝4時起きでご飯を炊き、子どもたちの栄養バランスを考えたメニューで用意する。

それだけでなく、最終日に子どもたちを見送った後も残って、後片付けをして翌日に帰京。

おもてだって見えないけれども、グロースを支える最も重要な役割。

 

さらに、40名近い人数の食事を用意し、おまけに食事の時間が何時になるのかその時にならないとまったく分からない。

7時から、と、ボクが指示しておきながら、子どもたちに何かしらのトラブルが起きれば話し合いが始まり、いつ食事を始められるのかもわからない。

それでいて、いつも子どもたちに出来たてを食べられるように、工夫をするのは並大抵のセンスでは難しい。もちろん、体力も。

 

今回のめしたき隊長はCHIE。

 

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ひとり黙々と仕込み中のCHIE。

去年初参加でイントラ見習いをし、今年は自ら志願して食事を担当してくれた。

何人ものサポーターと協力して毎回、おいしい食事を用意してくれた。

 

3日目の夕食は、子どもたちのカレー作り。

めしたき隊の、ほんの束の間の、気を休められる時間。

 

士幌高校からロッジに戻り、子どもたちに伝える

「とって来たイモを使って、おいしいカレーを子どもたちだけで、グループごとに作ってくれ!」

 

スタッフは一切口出ししないし、手伝いもしない。

じっと見守る。

時には危ない包丁使いに、ヒヤヒヤしながら。

 

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グループで工夫を凝らす

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包丁!!

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ほとんど遊びながら。

 

リピーターの子どもたちは、このための準備をしてくることも多い。

カレールーに、ルーを粉のように細かくしたり、コーヒーの粉を入れたり、スープカレー(意図していなかったのかもしれないけれど)に仕立てたり、

 

子どもたちのカレーを食べるのは、本当に楽しみ。

全員で協力し、野菜や肉をカットしたり、煮込んだり。

1時間40分という時間を、子どもたちが設定し、よーいスタート。

 

初めて包丁を持つ子どももいるけれど、それぞれのグループで皆が何かしらの役割をもって調理している。

 

結果、1時間39分55秒!!!

大急ぎで席に着き、全員で「イッタダキマース!」を叫んで食べる。

大家族の雰囲気を味わえる、この瞬間が、ボクは大好きだ。

 

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夢中になって食べる

 

同じ食材を使っていても、グループごとに味が違う。

良く煮込まれているイモもあれば少しかためのイモもある。

濃いカレー、薄めのカレー、どれもこれも絶品だ。

 

あっという間に鍋の中身は空っぽ。

 

いつもは、子どもたちからサポーターに、大きな声で「ごちそうさま」を言う。

 

でも、このときは、ボクたちスタッフ一同が、子どもたちに「ごちそうまでした」を言う。

 

時間は夜9時を回った。

でも、この3日目には、最後の大冒険が待っている。

 

 

 

 

 

 

29回グロースセミナー3日目その4

高原を走り下りる。

 

牧場が広がり、牛たちがのんびりと草を食んでいる。

 

「はい、ブレーキ!」

 

「はい、はなしてー!」

 

「はい、ブレーキ―!、止まりそうになるまでブレーキ!!」

 

「はなせ―」

 

これを繰り返し、1年生のMSKに、RNTに、MHRに叫び続ける。

 

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下り5キロの周辺は牧場。

 

力のない、小さな手で握るブレーキには限界がある。

次第に、手がしびれてきて、しまいには、スピードがどんどん出てしまう。

怖くなって、ペダルから足を話し、足ブレーキをしようとする。

とたんに、ハンドルがぶれる。

 

これまで何度、冷や汗をかいた事か。

ケガをする時は、一瞬だ。

 

しっかりと、ハンドルを握り、必死になっている姿には感動する。

大人になって、どれだけ「必死」になる事があるだろうか。

 

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快晴の中を走る

 

それでも、1年生のMHRも、RNTも、MSKも快調に下りていく。

昨年は、この急坂5キロに2時間を費やした。

 

順調だ。

 

下りが終われば、今度は上り。

こまめに給水しながら進む。

 

約1時間かけて、休憩ポイント。

 

全チームが無事にたどり着いていた。

 

たっぷりと休憩をしている間に、

「さあ、RNT、体温計るぞ!」

 

車に乗せ、体を冷やしてから体温を測る。

38.7度!!

 

「RNT、数字見えるか?」

みるみるRNTの顔がゆがみ、涙があふれ出す。。

 

「残念だけど、ここで、RNTは中断だ」

 

ひるめしーずのメンバーを呼ぶと、みんながここまでやり遂げたRNTを承認する。

そして、彼ら自身も、一緒にできない悔しさをかみしめていた。

 

RNTは、ただただ泣いていた。

 

悔しくて泣く。

それをみんなで悔しがって、一緒に泣く。

子どもたちの時間は、いつも今ここにある。

 

明日の事でもないし、昨日までのことでもなく、今ここに起きている事を全身を震わせながら味わう。

ボクが、大人が少しずつ手放してきてしまった大切なものを、今という瞬間を、彼らは、ここで感じているのだ。

 

グロースでは、こんなことを何度も体験する。

ボクたちの心の中の「子ども」をよみがえらせてくれる。

 

ここから、ボクは乗っていたMTBをサポーターのフミトに渡し、彼が運転していた軽トラにのり、RNTを助手席に乗せた、、、、のはいいのだけれど、、、・

 

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熱があっても、元気だ。

なんとこの軽トラ、クーラーがない。

送風にすると、熱風が噴出してくる。

これじゃ、RNTがますますまずいことになってしまう。

RNTを別の車に乗せ、ボクがMTBチームの最後尾をその軽トラでのろのろと追いかけることに。

ウダルアツサデ、アヤウク ネッチュウショウニ ナリソウダッタ。

 

午後2時30分。

全チーム全員が、中央公園に到着。

 

やり遂げた満足感を味わい、みんなで承認をした。

応援をしてくれていた、JRAも、KSRも、そしてRNTも。

 

横付けされている車の中では、病院から戻ったSOUが、爆睡中。

診断としては、熱中症ではなく、風邪の症状だという。

風邪薬と熱さましの座薬をもらったが、飲ませずに様子を見ることに。

すぐに車から出てきて、グループと一緒に昼の弁当を食べた。

 

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MTBの回収もサポーターの大事な仕事。富さん70歳!

 

午後3時半。

士幌高校へ向かう。

ここからは、SOUも一緒に参加。

農業高校で、最近は道内だけでなく全国から注目される高校になってきた。高校ブランドの野菜や肉加工食品などが有名だ。

 

ここの、どでかい農場で芋ほり。

農場は、無農薬。有機農法で作物を育てている。

今年のイモは、「わせしろ」

主に、ポテトチップにする芋らしいけど、もちろん普通に食べてもうまい。

 

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グロースでは、全員はだしで掘る。土が気持ちいい。

 

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わせしろ

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見渡す限り高校の農場

 

高校の先生たちの指導でたっぷりと収穫し、次に向かうのは牛舎。

搾乳。

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手絞りで搾乳

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ひとりひとり手絞りの体験をさせてもらい、これから、いよいよ子どもたちだけのカレー作り。

 

食事担当のサポーターも、今夜だけはほんの少しだけ、

 

お休みできる。

 

さて、どんなカレーが出来上がるのか。

 

 

 

 

29回グロースセミナー3日目その3

そろそろ、MTBの実習をスタートする時間。

 

「階段のチャレンジは終わったかぁ?」

 

すると、誰かが

CHRがまだ」と言う。

 

CHRを見ると、MTBに乗ったまま階段近くにいる。

 

「チャレンジするのか?」

 

そもそも、階段下りはオプションで、チャレンジしたい子どもたちだけがやっている。

1年生も、何度も失敗を繰り返しながら、最後にはふらつきながら成功していた。

 

CHRは、それをずっと見ていたらしい。

CHRの返事はない。

でも、やろうとしているのはわかる。

セットアップの時のグループ決めも、そして北海道に来てからのグループ決めの時もそうだった。

何度も、何度も、一歩を踏み出そうとしているのが、手に取るように伝わってくる。

この子は、もとからこういう子ではなかった。はずだ。

何かのきっかけで、自分にストップをかけ始めた。

 

CHRは、自分からはボクには話をしない。

せいぜい返事をする程度。

そういう子どもは今までにも何人もいた。

 

言葉にしない。あるいは言葉にできないことで、便利なこともあるだろうけど、本人としては、いろんなことで困ってるんじゃないかとも思う。

 

でも、グロースでは、話をしないことは特に問題ではない。

しっかりと向き合ってさえいれば、何を言いたいのか、何をしたいのかはわかるから。

そして、そういう子どもに限って、本当は、結構おしゃべりな子が多かった。

 

CHRは、チャレンジしたいと、小さくうなづいた。

「よし、そろそろ出発の時間だから、チャレンジするなら今だぞ」

 

初めてチャレンジする子どもには必ず伝えることがある。

ハンドルが階段を一段下りるたびにブレるから、しっかり握ること

ペダルに足をのせたままでいること

この二つを伝えてから、

 

CHRがチャレンジするぞ」とみんなに呼びかける。

 

子どもたちも、スタッフも「オーッ!」と、応援の声があがり集まってくる。

 

ところが、おり口に進み出たものの、CHRはなかなか踏みだすことができない。

気持ちはひしひしと伝わってくるのだけれど、ペダルを踏み出せずにいる。

 

次々に声がかかる。

「大丈夫!」

「自信もって!」

「おもいきって行け!」

 

5分、10分と時間がたっていく。

それでも、唇をかみしめ、何度もペダルを踏み出そうとしては、動けなくなる繰り返し。

 

ボクは、あらためて「どうする?やるのか?」

そう聞くと、CHRは、はっきりとうなづく。

 

だったら、待つしかない。

また試みる。

応援の声が上がる

でも動けない。

 

CHRのタイミングで行くから、みんなは静かに待っててくれ」

 

かれこれ20分ぐらい。

なんども、踏み出そうとしては、固まってしまう。

 

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何度も何度も踏み出そうとするCHR。決してあきらめなかった。

 

でもそろそろ、全体を動かさなくてはならない。

CHR、いったんチャレンジを中断させてくれ。そろそろ出発だ。もちろん、チャレンジしたくなったらいつでも言ってくれ、いいか?」

 

一歩踏み出せないことは、誰にだってあるしボクにだってある。

そういう時は、簡単にあきらめたり、なかったことにしてしまうことが多い。

 

でも、動き出せないこと、踏み出せないことは、けっしてダメなことではない。 

大事なことは、あきらめずにそれに向き合うこと。

CHRがすごいところは、決してあきらめなかったこと

これって、誰にでもできることではない。

彼女は、ずっと、チャレンジすることに向き合っていた。

どれだけその一歩が踏み出せないジレンマを味わっていたか。

そして、CHRの熱い気持ちは、ボクにも伝わってきた。

 

ボクには、出発前にしなければならないことが他にもまだあった。

RNTと、SOU、二人の1年生の体温チェック。

 

二人をロッジに呼び、

「体温を測る。38度以上あったら、残念だけどやらせるわけにはいかない。その時は、全力で応援だ」

 

二人とも、見るからに元気で問題はなさそうだ。

まずRNT

ピピッと言う音。

36.9

「オー、ぎりぎりだな。」

「途中の休憩所でもう一度測る。そこで38度を超えていたら中断する。いいな?」

 

満面の笑み。

RNTは、昨日のこともあったし、今日のMTBを心から楽しみにしていたから。

 

次にSOU

結果は、、、、、なんと39.3

 

怖いからMTBはやらない、と言っていたSOU

でも練習をしているうちに、やりたくなった。

絶対にやりたいと思ったらしい。

RNTとは違って、比較的静かな1年生で、普段から感情もあまり見せない。

ボクから見ても、熱の割には、元気に見える。

やらせてあげたい気持ちはあったけれど、さすがに39度を超えている。

これじゃぁ、やらせないどころか、応援だってやらせられない。

SOU、残念だけれど、これだけ熱があったら、やらせるわけにはいかない。病院に行こう。」

 

そう伝えた途端、SOUの目に、みるみる涙があふれ出してくる。

天を仰ぎ、声を上げずに泣く。

必死に涙をこらえようとする。

 

正直せつなかった。

 SOU、コノ クヤシサヲ ヨーク オボエテオクンダゾ!

昨日に引き続き、スタッフのさだに、急きょ病院へ行ってもらうことに。

SOUの両肩をつかんで、

「病院に行ってもらう。そして、元気になって中央公園で会おう」

泣きながら頷くSOUを見送った。

 

そしてもう一人、悔し涙にくれたのが、1年生のKSR

彼女は、最初からやる気満々。

自転車にもちゃんと乗れる。

ところが、練習を見る限り、MTBを乗りこなせずにいる。

ハンドル操作も、ブレーキも、こぎ出してもすぐによれてしまう。

KSRの小さな手では、MTBのブレーキが握れないし、どうやら足も地面に届いていない。

 

そういえば、イントラチームキャプテンの菜緒が、小学校1年生で参加したときに同じ思いをしていたのを思い出す。

自転車には乗れるけれど、身体がまだ小さくて用意してあるMTBを乗りこなせないのだ。

大粒の、それも表面張力のある涙を流していた。

KSR、やりたい気持ちはわかる。でもその状態では危険でMTBはできない。トラックに乗って、みんなの応援をやろう。」

あっという間に、目にいっぱいの涙をためていた。

 

1週間前にようやく自転車に乗れるようになったというMNT

グロースに参加するために、必死に練習をした3年生。

思った以上に、乗りこなしている。

こいつは大丈夫だ!

 

1030分。

ようやく、グループごとに間隔をあけて出発。

 

そして、チームまいまいが出発するときに、びっくり仰天。

なんと!! CHRが、勢いよく階段を走り下りて行った!!!

何というやつだ。

やはり、ただものではない。

 

3日目のブログ、まだ朝の10時半だというのに、これがその3

読んでくださっている方には、申し訳ないほど先に進まないのだけれど、しばし辛抱してください。

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MTB出発前のひととき。