29回グロースセミナー3日目その6
「恐怖」という感情は、人間が死に直面した時に味わう自然な感情。
お父さんが怖い、とか、先生が怖い、という時の感情は、「恐怖」とは区別されている。
高いところから下を見下ろした時、
突然大きな音に出くわした時
そして、夜の闇
最後の実習は、夜の9時過ぎに始まった。
ナイトハイクは、子どもたちに、夜の森を感じてもらうための大事な実習だ。
目に見える大木や、木漏れ日、風に揺らぐ木々の葉を楽しむのも素敵な事。
グロースのこの実習の目的は、自分の恐怖心と向き合うこと。
子どもたちに、この実習について伝えていくと、毎回の事だけれども、次第に緊張感が高まっていくのを感じる。
「森の中を子どもたちだけで歩きます。
歩いて、800歳になるミズナラの木があった場所まで行く。
チームに一本のロープを渡すから、それを右手でしっかりと握る。
そうすると、縦一列になります。
懐中電灯は各チームに1本だけ、先頭のリーダーが持つ。
リーダーになる人は、何度かこの道を歩いた事のある人。
この森には、動物たちがたくさんいる。
クマも住んでいるかもしれない。
動物たちは臆病だから、自分からは襲ってくることはない。
先にスタッフが、大きな音を立てて、動物たちを追い払います。
グループで一つになって、これをやり遂げる。
そしてこの実習は、最後まで全員無言。」
「それじゃぁ、この実習をやるのかどうか、グループで話し合って決めてください」
緊張感の漂う中、話し合いが始まる。
RNTとSOUは、体調が万全ではないので、ボクの判断でロッジで休ませることに。
ただ、元気なMSKが、行かないと言い出したのには驚いた。
1年生とはいえ、これまで果敢にチャレンジをし続けてきたMSK。
MSKの目はとても真剣で、強い意志が伝わってきた。
それでも、ボクは、それを簡単に受け入れることはしない。
やらない理由は何か?
できるなら、本当はどうしたいのか?
みんなから助けをもらえるとしたら何が欲しいか?
ひとつひとつを確認していく。
そして、MSKのチームにも、他のチームにも聞く。
「MSKと一緒にこの実習をチャレンジしたい人は?」
ほぼ全員の手が上がる。
それでも、MSKの意思は変わらない。
自分の意思で、「やらない」と決めた事を確認し、それを全員で受け入れた。
ボクは、単に許可を与えることはしない。
こうしたまどろっこしいプロセスを必ず踏む。
自分で決めるための、環境を常に与える。
グロースを率いるリーダーとして、どちらが良いかどうか、どうするべきなのか、を判断材料にせずに、子ども自身が「どうしたいのか?」を優先する。
「したくない」事ではなく「したいこと」を。
結局、MSKは、RNT、SOUと3人で「ロッジで待つ」ことを決めた。
MTBのコースとして数十年前に整備された森を、一本のロープと懐中電灯ひとつで、歩く。でも、今は手入れもされていないため、MTBのコースとしては使えないほどに、樹木や草が生い茂っている。
子どもたちは、そのロープを右手で握り、縦一列になって約2.5キロを無言で歩きます。
スタッフは、各チームの約20メートル後ろから、無灯で追う。
夜行性の動物たちは、息をひそめて、ボクたちを見ているに違いない。
その気配をひしひしと感じる。
耳を済ませなくても、すぐ近くを小さな動物がミシミシと足音をさせながら歩く。
闇夜は、ほんの数メートル先も見えなくなるから(極端に言えば、自分の手のひらさえ見えない)、恐怖のイメージが、否が応でも広がる。
ただ一言、コワイ。
士幌でも、クマは出没する。
毎年、猟友会の方が、何頭かしとめている。
この森の周辺は、広大な牧場。
本来であれば、牧場近くにはクマは来ないはずだが、近年は、この森に巣を作っているという。
最初の2チームが。右と左の道に分かれて出発する。
そして、約10分後に、残りの2チーム。
約2キロほど歩くと、二つの道は合流する。
今までにも、道を見失い迷子になったグループはあった。
そして、今回も、一つのチームが道を見失った。
ボクに連絡が入る。
「ひるめしーずが、ゴールに来ていません」
この瞬間のヒヤッとする感覚を何度味わってきただろうか。
ボクは、一緒にいるグループから離れ、すぐに捜索を始める。
携帯電話がなかったころは、やみくもに、ともかく必死に探すしかなかった。
なんとか、無事に道を見つけて、全員がゴール。
かつて、しっかりと大地に立っていたミズナラの木は、その幹を大地に横たえている。でも、死んだわけではない。
その太い幹からは、新しい木が生え、森を再生していく。
23:40 ロッジ到着。
3日目の実習が終わった。