29回グロースセミナー3日目その3
そろそろ、MTBの実習をスタートする時間。
「階段のチャレンジは終わったかぁ?」
すると、誰かが
「CHRがまだ」と言う。
CHRを見ると、MTBに乗ったまま階段近くにいる。
「チャレンジするのか?」
そもそも、階段下りはオプションで、チャレンジしたい子どもたちだけがやっている。
1年生も、何度も失敗を繰り返しながら、最後にはふらつきながら成功していた。
CHRは、それをずっと見ていたらしい。
CHRの返事はない。
でも、やろうとしているのはわかる。
セットアップの時のグループ決めも、そして北海道に来てからのグループ決めの時もそうだった。
何度も、何度も、一歩を踏み出そうとしているのが、手に取るように伝わってくる。
この子は、もとからこういう子ではなかった。はずだ。
何かのきっかけで、自分にストップをかけ始めた。
CHRは、自分からはボクには話をしない。
せいぜい返事をする程度。
そういう子どもは今までにも何人もいた。
言葉にしない。あるいは言葉にできないことで、便利なこともあるだろうけど、本人としては、いろんなことで困ってるんじゃないかとも思う。
でも、グロースでは、話をしないことは特に問題ではない。
しっかりと向き合ってさえいれば、何を言いたいのか、何をしたいのかはわかるから。
そして、そういう子どもに限って、本当は、結構おしゃべりな子が多かった。
CHRは、チャレンジしたいと、小さくうなづいた。
「よし、そろそろ出発の時間だから、チャレンジするなら今だぞ」
初めてチャレンジする子どもには必ず伝えることがある。
ハンドルが階段を一段下りるたびにブレるから、しっかり握ること
ペダルに足をのせたままでいること
この二つを伝えてから、
「CHRがチャレンジするぞ」とみんなに呼びかける。
子どもたちも、スタッフも「オーッ!」と、応援の声があがり集まってくる。
ところが、おり口に進み出たものの、CHRはなかなか踏みだすことができない。
気持ちはひしひしと伝わってくるのだけれど、ペダルを踏み出せずにいる。
次々に声がかかる。
「大丈夫!」
「自信もって!」
「おもいきって行け!」
5分、10分と時間がたっていく。
それでも、唇をかみしめ、何度もペダルを踏み出そうとしては、動けなくなる繰り返し。
ボクは、あらためて「どうする?やるのか?」
そう聞くと、CHRは、はっきりとうなづく。
だったら、待つしかない。
また試みる。
応援の声が上がる
でも動けない。
「CHRのタイミングで行くから、みんなは静かに待っててくれ」
かれこれ20分ぐらい。
なんども、踏み出そうとしては、固まってしまう。
でもそろそろ、全体を動かさなくてはならない。
「CHR、いったんチャレンジを中断させてくれ。そろそろ出発だ。もちろん、チャレンジしたくなったらいつでも言ってくれ、いいか?」
一歩踏み出せないことは、誰にだってあるしボクにだってある。
そういう時は、簡単にあきらめたり、なかったことにしてしまうことが多い。
でも、動き出せないこと、踏み出せないことは、けっしてダメなことではない。
大事なことは、あきらめずにそれに向き合うこと。
CHRがすごいところは、決してあきらめなかったこと。
これって、誰にでもできることではない。
彼女は、ずっと、チャレンジすることに向き合っていた。
どれだけその一歩が踏み出せないジレンマを味わっていたか。
そして、CHRの熱い気持ちは、ボクにも伝わってきた。
ボクには、出発前にしなければならないことが他にもまだあった。
RNTと、SOU、二人の1年生の体温チェック。
二人をロッジに呼び、
「体温を測る。38度以上あったら、残念だけどやらせるわけにはいかない。その時は、全力で応援だ」
二人とも、見るからに元気で問題はなさそうだ。
まずRNT。
ピピッと言う音。
36.9度
「オー、ぎりぎりだな。」
「途中の休憩所でもう一度測る。そこで38度を超えていたら中断する。いいな?」
満面の笑み。
RNTは、昨日のこともあったし、今日のMTBを心から楽しみにしていたから。
次にSOU。
結果は、、、、、なんと39.3度
怖いからMTBはやらない、と言っていたSOU。
でも練習をしているうちに、やりたくなった。
絶対にやりたいと思ったらしい。
RNTとは違って、比較的静かな1年生で、普段から感情もあまり見せない。
ボクから見ても、熱の割には、元気に見える。
やらせてあげたい気持ちはあったけれど、さすがに39度を超えている。
これじゃぁ、やらせないどころか、応援だってやらせられない。
「SOU、残念だけれど、これだけ熱があったら、やらせるわけにはいかない。病院に行こう。」
そう伝えた途端、SOUの目に、みるみる涙があふれ出してくる。
天を仰ぎ、声を上げずに泣く。
必死に涙をこらえようとする。
正直せつなかった。
SOU、コノ クヤシサヲ ヨーク オボエテオクンダゾ!
昨日に引き続き、スタッフのさだに、急きょ病院へ行ってもらうことに。
SOUの両肩をつかんで、
「病院に行ってもらう。そして、元気になって中央公園で会おう」
泣きながら頷くSOUを見送った。
そしてもう一人、悔し涙にくれたのが、1年生のKSR。
彼女は、最初からやる気満々。
自転車にもちゃんと乗れる。
ところが、練習を見る限り、MTBを乗りこなせずにいる。
ハンドル操作も、ブレーキも、こぎ出してもすぐによれてしまう。
KSRの小さな手では、MTBのブレーキが握れないし、どうやら足も地面に届いていない。
そういえば、イントラチームキャプテンの菜緒が、小学校1年生で参加したときに同じ思いをしていたのを思い出す。
自転車には乗れるけれど、身体がまだ小さくて用意してあるMTBを乗りこなせないのだ。
大粒の、それも表面張力のある涙を流していた。
「KSR、やりたい気持ちはわかる。でもその状態では危険でMTBはできない。トラックに乗って、みんなの応援をやろう。」
あっという間に、目にいっぱいの涙をためていた。
1週間前にようやく自転車に乗れるようになったというMNT。
グロースに参加するために、必死に練習をした3年生。
思った以上に、乗りこなしている。
こいつは大丈夫だ!
10時30分。
ようやく、グループごとに間隔をあけて出発。
そして、チームまいまいが出発するときに、びっくり仰天。
なんと!! CHRが、勢いよく階段を走り下りて行った!!!
何というやつだ。
やはり、ただものではない。
3日目のブログ、まだ朝の10時半だというのに、これがその3。
読んでくださっている方には、申し訳ないほど先に進まないのだけれど、しばし辛抱してください。