第30回グロースセミナー3日目その4
夕食後、ナイトハイクについての話をする。
「これから、今日最後のチャレンジ。みんなも疲れているだろうし、低学年は眠い子どももいる。だから、行きたくなければ、このロッジに残って構わない。」
今回は、低学年対策として、全員参加ではなく、希望者だけのチャレンジにすることにした。
夜も遅いことだし、体力も奪われている。
「自分の考えで、『行く!』と決めた人だけでやる。
森の生きものたちは夜行性で、クマの巣もあるかもしれない。
その中を1時間以上(約2.5キロ)歩きます。
そして、全員無言で。」
この話をしていると、子どもたちの張りつめた緊張感が伝わってくる。
「チームごとに一本のロープを渡します。
全員がそのロープにつかまっていればはぐれることはない。
森は真っ暗です。だから、絶対にロープを離さないこと。
懐中電灯は各チーム一本だけ。
スタッフは、みんなの後ろからついていくけど、サポートはしない。
リーダーは道を知っているけれど、夜の森の道は昼とは全く違う。
迷ったら、みんなで協力して歩く。
ゴールは、樹齢800年のミズナラのご神木。
それでは、このチャレンジをやるかどうか、チームで決めます」
ここまで一気にしゃべった。
あとは、子どもたちに任せる。
静かに話し合いが始まる。
2年生のMSKは昨年は、ロッジに残った。
眠いのもあったのだろうけれど、やはり怖かったのだろう。
今までにも、このチャレンジに腰が引けてしまう子どもは何人もいた。
だから、これだけ低学年が多いから、何人かは残るだろうと、予想していた、、、、
ところが、、、、
全員がやる!と決めた。
ボクは、低学年に、直接、確認した。
目が輝いている。
疲れてはいるものの、意欲は満々だ。
あらためて、ボクたちスタッフの気がひきしまる。
21:40 出発点までバスで移動。
バスの中から、すでに無言にさせている。
そこから、チームごとに無言で出発。
昨年は、ひとチーム迷子になった。
今までにも、道を間違えて、とんでもないところまで行ってしまったチームがいくつもある。
事前に、クマよけのために、スタッフが大きな音や声を出しながら歩いている。
この役割のスタッフも、実はものすごく緊張する。
だから、思い切り大きな音を出し、大声を出す。
これで、動物たちは警戒する。
チームごとに出発する。
30分ほどたって、道のりの半ばで、イントラが声をかける。
「懐中電灯を消して、しばらく森の音を聞いて」
森は、様々な音やにおいに包まれている。
ミシミシと何かが近くを歩く
ケモノの匂いが漂う
ざわざわと木々の葉が揺れる音がする。
木立の合間から見える空には、満天の星。
この星灯りが、森全体を優しく照らしてくれている。
スタッフのボクたちは、一切の灯りなしで、10メートルほど後ろからついていくだけ。
子どもたちからは全く見えない。
だから、結構道を踏み外すし、怖い思いは何度もする。
5分ほど森の中にたたずみ、再度出発させる。
子どもたちの真剣なチャレンジから目を離せない。
遠くから、彼らがひとかたまりになって(実際は懐中電灯の光しか見えないのだけれど)歩くのを見守り続ける。
やがて、せせらぎの音が聞こえてくる。
橋を渡る。
ここでは、よく蛍が見えていたのだけれど、ここ数年は見ることができない。
これも、環境の変化なのだろうか。
牧場わきの道に出る。
ここまでくればゴールはもうすぐそこだ。
「懐中電灯を消して」
イントラの声に従って、光が消える。
最後の15分ほどは、目が慣れてきているので、灯りなしでも歩いていける。
そして、ご神木に到着。
緊張が解かれ、子どもたちはすぐにおしゃべりを始める。
実は、すでにこのご神木は、樹齢800年の命を終え、数年前に雷でその身を横たえている。
それでも、森は死ぬことはない。
このご神木もかつての姿はしていないけれども、その樹幹から新しい命の歴史を始めている。
子どもたちに、かつてここに見事にそびえたっていたみずならの話をする。
そして、チームごとに、樹幹の上によじ登り、みずならを体験する。
今年ラストイヤーのTKHが呟いた。
「初めて来たグロースのナイトハイク。あの時も満天の星だったなぁ。」
感慨深そうに言う彼の心の中に、このミズナラが生きている。
彼の人生の中で、この体験がどんな物語になっていくのだろうか。
この日のすべての実習が終わり、ロッジへ戻る。
今日の一日を、みんな、やりきった!
23:30就寝
明日は8:00起床。
すこっしゆっくり起きることにする。