第30回グロースセミナー2日目その2
テントの撤収と、周辺のごみチェックを終えて、2日目が始まる。
ロッジに戻り、体操と5分間チャレンジ。
この日は白雲山登山。
標高1186メートル。
大雪山国立公園の南端にあり、叱り熱子をもロス360度の絶景を望める。
「この山はクマが出るかもしれない、
クマザサが生い茂っていて道を見失うこともあった。
低学年の身長よりも大きな岩がごろごろしている場所がある。
木の根が地面に盛り上がっていて、ある傷来道もある。
おまけに最後の山頂へのアタックは、巨大な岩をよじ上ることになる。
地元の小学生たちは3年生になったら、この山に登れる。
でも、運が良ければ、希少動物のエゾナキウサギやエゾリスを見ることができるかもしれない。
山頂からは然別湖と言うものすごくきれいな湖を見下ろせるかもしれない」
などなど、危険があることも、登山の達成感の在ることも同じように伝える。
そして、各グループで、話しあいをし、この実習をやるのか、やらないのかを、決めていく。
時間のかかる話し合いになることもあるのだけれど、この日はあっという間に
全員、「のぼる!」と決めた。
あのRKも、
そしてあのHRTも、である。
やると決まったら、早速の準備開始。
登山靴に履き替え、持ち物を用意し、おむすびを自分でつくる。
山頂で、食べるためのおむすびだ。
それを自分で作ってから山に登る。
手に一杯ご飯粒をつけているRYO、ちいさなおにぎりを3つ並べているKSR、毎回でっかいのをつくるTKH、まるでアートをしているようにおにぎりが出来上がっていく。
8:20 チームごとに登山開始。
暑さの中、低学年の子どもたちがどこまでやれるのか、一抹の不安を感じながら送り出す。
何回か休憩する場所がある。
バナナポイントと名付けている休憩場所では、まさしく、出発時に渡したバナナを食べる。
その後の第1休憩ポイントでは、ネイチャーゲーム「音いくつ」
子どもたちは、目を閉じたまま、聞こえてくる音を指折り数えていく。
鳥のさえずり、その夜風に揺れる木々の葉、とおくにきこえるほかのチームの声、虫の羽音、、、
目を閉じて、集中して耳を傾けている様子に、心動かされてしまう。
第2休憩ポイントでは、「色いくつ」
同じ緑色でも、何種類もある。色の名前がわからないから、オリジナルで自分で考える。
この「色いくつ」は、多い子どもで10個くらいを見つけて終了する。
ところが、「おれ30!」と興奮気味にいう子どもがいる。
なんとあのHRTだ。
生き生きと目を輝かせながら、「オレこの実習気に入った、もっと探す。100まで探す」
しばらくすると、「もう35になった」
HRTは、山頂でも色を探し続けた。
「オレ、ノートに全部書く。家に帰ってもやる」
相当気に入ったらしい。
下山後に、HRTにノートを見せてもらった。
みどり、あか、きいろ、くろ、しろ、、、、、、、
うすみどり、うすあか、うす、、、、、、
うすうすみどり、うすうすあか、、、、、、
心底、感動した。
ありったけの想像力で、工夫した名前が次々に現れる。
HRTのイマジネーションが一気に広がった。
「好き」を見つけることは、心が動いた自分を実感することであり、自分という存在を確認することでもある。
HRTが、HRTなりに、自立の一歩を踏み出した瞬間だ。
晴れ渡った空のもと、山頂は360度見渡せる絶景だ。
全員、山頂に立ち、見事に広がる然別湖を眼下に見て、自分で作った握り飯をほおばる。
そして無事に下山。
最後のチームが下りてくるのを待っていた時に、ちょっとした出来事。
1年生のHKが、一人ぽつんとチームから離れて座っている。
「どうした?」
近づいたボクにHKは「AOTが怖い」と言う。
AOTは、気のいい奴で、誰かを怖がらせるようなことをいうやつではない。
それでも、HKが怖がっているわけだから、放っておくことはできない。
AOTは小学校6年生で、とんちんかんな発言をして、よくみんなを笑わせている。
こういうことは、丁寧に向き合うことが大事。
どちらかを悪者にするような判断はしない。
ただ、事実を確認していく。
さっそく、ボクは、AOTを呼んで、伝えてみた。
「AOT、HRKがお前のこと、怖いって言ってる。HRKにどんなことを言ったのか覚えてるか?」
首をかしげるAOT。
どうやら覚えはないらしい。
「HRK、AOTに自分で言えるか?何が怖かったのかって」
HRKは、うつむきながらも、AOTに
「さっき、トイレに行こうとした時に、今はダメだっていわれた。それが怖かった」
「AOT、聞いたか?HRKに、なんか言うことはあるか?」
「あっ、そのときはみんなで一緒にいたほうがいいと思って、いかない方がいいと思っただけで、、、、」
「HRKは、それが怖かったんだって」
「あっ、はい、気をつけます」
「HRK、AOTは、怖がらせたわけじゃなかったみたいだ。同じチームとして、これからも一緒にやっていけるか?」
HRKは「わかった」と言ってうなづく。
「じゃあ、二人で握手してこのことはおしまい、それでいいか?」
完了する。
このこともグロースではいつも大事にしている。
感情のわだかまりが残ったままにしておくのではなく、そのことを、しっかりと自分の中で完了する。
なかったことにするという意味ではないし、それを終わらせるというニュアンスでもない。
ボクたちは、過去に起きたことを思い出しては嫌な思いを再現する癖がある。
恨みつらみが消えず、時には自分を批判する。
完了は、
そのことから学ぶ。
そのことを受け取る。
その事実を認める。
簡単なことではないけれど、小さな言い争いや、嫌なことがあった時も、完了することで、新しい一歩を踏み出すことができるのです。
この後の二人の様子に、特段おかしなところもなかった。
こうやって、何度も、何度も、子どもたちの潔い気持ちを切り替えを見せられる。
15:45 全チーム下山。
白雲山の登山を、全員でやり遂げたことを承認。
疲れは見えるものの、皆の顔に満足した笑顔があふれている。
続く