父との邂逅
ボクの父親は、20数年前に亡くなっているのだけれども、昨日その父の存在を久しぶりに味わった。
家には仏壇があって毎朝挨拶をしているし、時折墓参りもしているのだけれど、昨日は特別に父の人となりや存在をとても身近に感じることができたのです。
数年前に出会った、女性Aさん。
上品で明るくて、楽しい女性です。
ご主人が経営されている会社が青山にある、との話から、ボクも若いころに住んでいたのでつい、「どのあたりですか?」と聞いてびっくり。
ボクの父が所有していた土地を購入してくれた方だった!
そこには、1階から中2階までが西洋骨董で、それよりも上の階がオフィスというちょっと変わった3階建て。そしてその隣にある一軒家(ボクはその家の2回に住んでいた)があった。
Aさんの儀父さんが買い取ってくれて、1978年にその会社の社屋に生まれ変わり、以来変わらずに青いタイルの素敵な建物がたっている。
「あっ、その節はありがとうございます」と、深々と頭を下げられ、恐縮したのを覚えています。
「その時に、お父様から頂いたお地蔵様は、今も大切にさせていただいてます」
ボクの父は、苦労していた若いころに、困ったときにはいつでも街角にお地蔵さんがいて助けてくれた、という理由で、お地蔵さんを信仰していた。
石仏やブロンズなど、ことあるごとに作家さんに作ってもらい、それをいろいろな方にあげるのも好きだった。
ボクにもブロンズのお地蔵さんや、大理石のお地蔵さんを渡された。
知らなかったのだけれども、その土地の売買の際に、石のお地蔵さんをプレゼントしていたらしい。
そんなことから、それ以来Aさんと親しくさせていただいていました。
昨日、その会社の50周年記念と、ご主人の旭日小綬章受賞のパーティにボクたち夫婦が招待され、きっと場違いになるから、と何度も遠慮したのですが、結局行くことに。
帝国ホテルのその会場には、取引先や業界の方々でいっぱい。おそらく1000人近くはいたのではないでしょうか。
いわゆる業界パーティのようなぎすぎすした感じはなくて、その会社が愛されていて、またご主人のあたたかな人柄があふれた、素敵なパーティでした。
Aさんも当然忙しそうだし、ボクたちは業界関係でもないので、会半ばで帰ろうとすると、Aさんが、「柴崎さんぜひご紹介を」と。
ご主人のご兄弟姉妹のご家族で埋まったその席に連れられていかれると、皆さんから
「あー、あのときの!」と興奮気味にあいさつをされたのです。
あの時に、あの土地を譲っていただいてから、、、、
あの場所を譲っていただけていなかったら、当社は、、、、
あそこに本社を築いてからわが社は、、、、
と、中には涙ながらに感謝の言葉を伝えてくれる方まで。
「家の庭に、頂いたお地蔵さまがあります」、とケイタイの写真を見せてくれた方も。
父は、みなさんに「ふるまう」のが好きでした。
今風に言い直せば、「与えるのが好きだった」ということでしょうか。
父を誇らしく思い、こんな不思議なご縁でつなげてくれた「おやっさん」を、昨日は肌で感じることができたのです。
今年の秋には、ご主人とAさんは所蔵しているアートを展示する美術館を開館します。おやっさんも、絵画芸術が大好きだった。
きっと、楽しみにしているに違いない。