『浮世の画家』カズオ・イシグロ
ネットで本を探すことに慣れてしまったけれど、たまには本屋さんをぶらつくのもいい。
実際に手に取って、パラパラとページをめくり、あまり内容を吟味しないままその感覚を頼りに購入する。
活字を読むのは、ボクにとって日常であり、物語の世界に入ることで、自分の中の知性や非現実世界への扉が開かれていくような感じが大好きだ。
数冊を購入し、その中の一冊が、この『浮世の画家』
カズオ・イシグロは、一昨年のノーベル文学賞を受賞した英国の作家。
英国に国籍を移した日本人である。
『忘れられた巨人』については、以前ブログに書いた気がする。
ファンタジー好きなボクとしては満足のいく作品で、なんとなくこの『浮世の画家』もそんな期待をうっすらと抱いていた。
カズオ・イシグロは、時代も場所もあいまいな作品をが多いとされているけれど、これは日本の戦前戦後を生きた画家の話だった。
戦争中に翻弄された消し去れない過去の自分と、それでも新しい時代迎え生きていく引退した画家の物語は、妙に自分を重ねてしまう。
現実をどの様に受け止めるかによって、その現実が美しくもあり醜くくもある。
それをどう表現するのかは、完全に芸術家にゆだねられている。
でもこれは芸術家だけではないだろう。
日常を生きる我々にとっても、今目の前の現実を、たとえ隣人と同じ現実を見ていたとしても、その現実の価値は、それぞれ違うのだ。
言い換えれば、自分自身の過去についても、その過去を光の中のものとするか闇の中に置いてしまうのかは、自分次第なのである。
ボクにとっては、少々深い主題の作品だったから(3月に渡辺謙主演でドラマになるらしい)、次に手に取る作品は、軽いものにしてみようと思う。