29回グロースセミナー2日目その3
最近は、スマホでのやり取りが可能になったけれど、グロース発足当初は、まだケイタイそのものがあまり普及していなかった。
その頃に山登りで活躍したのは、トランシーバー。
チームのイントラ(インストラクター)同士、そして、ボクとの連絡は、雑音とタクシー無線が入る、トランシーバーだけだった。
そのことで、かつて、ひとチームの行方がまったく分からなくなるという遭難事件(?)が起きたのだけれど、それも今は昔。
もちろん、いろんな勘違いの重なりで起きた、今では笑い話のエピソードだけれど。
29年もたった今は、LINEやfacebookを活用し、常に、他のチームの動向が確認できる。
下山途中で、サポーターからLINE連絡が入る。
「ひるめしーず、バナナポイントの少し先でRNTが頭痛で休んでいましたが、今出発」
*バナナポイントは、今回名付けられた、休憩場所の名前。登山口まであと40分。
14:30 全チーム下山し、RNTを見ると、かなり元気。
山頂で走り回っていて、疲れが出たのだろうとたかを括っていた。
まずは、全員揃ってやり遂げた自分を承認し、ロッジへ。
ロッジで少し遅めの昼食をとる際に、RNTが発熱していると報告がある。
体温は、38度を軽く超えている。
こりゃ、熱中症かもしれないと思い、両脇と頸椎を氷で冷やす。
グループの子どもたちも、心配そうにのぞき込んでいる。
本人は、疲れもあったのか、もうぐっすり。
即、士幌病院に電話連絡をし、診察の依頼をするとすぐに連れてくるように、と。
今日到着したばかりのサポーターのさだにお願いをして、病院まで車で連れていく。
結局士幌病院では治療できず、帯広の小児科へ。
他の子どもたちは、登山後に、ヤマダニチェックをしなければならない。
そのために約1時間ほどかけて、上士幌の温泉施設へ出かける。
風呂場でひとりひとりの体をチェック。
ヤマダニは、頭を皮膚の内側に食いついて、簡単には取れない。
食いついたヤマダニを取るときには、慎重に引き抜かないと頭だけ皮膚の下に残ってしまう。そうなると厄介だ。
ボクも何度も被害にあっている。
幸い、今回は、ヤマダニ被害の子どもは誰もいなかった。
ところで、病院に行ったRNTのその後は・・・・。
さだからの電話の近くで、RNTの声が聞こえる。
「いやだぁ、かえりたーい、はやくかえせー。」
と大声で泣き叫んでいる。
「熱が下がらないと帰れないんですよ」という看護師さんに
「だったらはやくなおせーー!」
点滴中に大声を出せるほどに、元気なRNT。
何とも頼もしい。
「RNT、しっかりなおして帰って来い。あしたから、みんなと実習をやるために。だから、今は先生のいう事を聞いて、おとなしくしてるんだぞ」
RNTは、小さな声で、
「うん、わかった。」
でもすぐそのあとに
「みんなは今何をしているの?」
その間、本隊の子どもたちは、上士幌の航空公園近くの滑走路で、熱気球体験。
さすがにそれを伝えるのは、心苦しかったけれど、正直に伝え、
「必ず来年体験しよう」と、伝え電話を切った。
熱気球体験は、29年前からお世話になっている、気球のオヤジ、山下さん。
山下さんのお弟子さんは、全国にいるほどのレジェンド。
風が強いと、気球をあげることが難しい。
18:30 滑走路は風が強かった。
まずは、気球を広げて準備を始める。
「30分もすれば風がやむから、待ってて」
山下のオヤジは、風を読むことができる。
言った通り、風は止み、夕焼けの空に熱気球が浮かんでいく。
長い、一日が終わった。
そうそう、もうひとつ。
11時に帰って来たRNT。
今夜の夕食は、腹ペコのRNTの大好物、鶏のから揚げ。
それを楽しみに帰って来た。
食べながら、RNTに
「お母さんに話したいことはあるか?」と聞くと、
「うん」という返事。
電話をすると、お母さんが何かを話しているのか、唐揚げを口の中にほおばり、うんうんとうなづいている。
しばらくして「終わった」、と言って電話を切ろうとするRNTに
「お母さんに伝えたいことがあるんじゃなかっけ?」というと、
電話口のお母さんに、みるみる涙をいっぱいためながら、
「ママ、ありがとう」
電話を切ったあとに、
「どうして泣いてたの?」と聞くと
「うれしかったから」
もう大丈夫だ。
おやすみRNT君。