第30回グロースセミナー4日目その3
グロース4日目その3
「一番楽しかった実習は?」と聞くと、人気があるのがマウンテンバイク、そしてそれと同じくらい「サポーターゲーム!」と答える子どもが多い。
この実習の目的は、4日間で培ってきた「チームの一体感」や、「チーム力」を実感していくこと。
高原全体を使い、いくつかのポイントをチームでクリアしながらでゴールを目指す。
ロールプレイングゲームのようで、一つをクリアするたびに高原に歓声が響き渡る。
もう一つ目的がある。
それは、サポーターとの交流だ。
イントラは、常に子どもに同行して実習を行うが、サポーターは、バックアップなので、なかなかそうはいかない。
各ポイントには、サポーターが待ち受けていて、彼らが問題を出しそれをクリアして次のポイントに進む。
サポーターとしても、子どもたち一人一人と直接かかわれる、貴重な時間だ。
スタートは、いつも食事をするバーベキューハウスで、ボクが問題を出す。
今年の問題は、これ。
このジグソーパズルを完成させると1か所だけピースが足りない。
それが一体何で、その正式名称は何か、が問題。
「よーい、始め!」
その合図で、4チームが一斉に組み合わせ始める。
初めは全体像が見えないけれど、次第にそれがこのヌプカ全体の地図であることがわかってくる。
低学年も嬉々として取り組んでいるが、これが結構難関。
ようやく出来上がっても、ピースがひとつ足りないし、その場所の正確な名称がわからない。
「あっ、そうかわかった!」と大声を出して、
「ほかのチームに聞こえちゃうから静かに!」とリーダーに叱られたり、
「できた!」と言って、ボクのところに来てもその名称を正確に言えずにまた戻されたり。
正解が言えると、
「やったぁ!」と叫び、大急ぎで5つあるポイントに向かっていく。
残されたチームは焦り、ますます混乱する。
大逆転もある実習なので、みな興奮気味だ。
最後のチームが正解して出ていくと、途端にBBQハウスはしーんとする。
後は、子どもたちだけで、行動していく。
子どもたちがゴールする、高原の一番てっぺんで、今夜は野外BBQの準備が始まっている。
山下のオヤジも得意の焼きそばを披露してくれる。
16:00 全チームがゴール。
BBQが始まるまで、居眠りおじさん(子どもたちが好きなネイチャーゲームの一つ)をやったり、高原の坂を走り下りたり、思い思いに過ごしている。
BBQはサンテナーをひっくり返して椅子代わりにする。
毎年チームごとにまとまって食べるのだが、今年はなんだか違う。
「オレたちリーダー4人でもっと話をしたい。
でも、チームとも、もっと話したい。
だから、こういう形にした」
リーダーのYKが言う。
中央に4人のサンテナーが置いてありその一つずつの周りにチームのサンテナーが置いてある。
まるで四葉のクローバーのよう。
面白いアイディアだし、みんなと一緒にいたい、と言う気持ちがひしひしと伝わってくる。
もう少しでBBQの準備が整うというときに、「パプリカ」が始まった。
この4日間、何かと彼らはこの歌をみんなで歌っていた。
*YOU TUBEへのリンクです。音が出るので周囲に気を付けてください。
これを見るたびに、「あの時」がよみがえる。
わずか4日で作り出してきたチームシップに感動する。
始まったBBQは、もちろん、サイコーにうまかった。
最後はキャンプファイヤーと承認の時間。
第30回グロースセミナー4日目その2(8月3日)
4日目は、高原実習。
ヌプカに滞在していながら、この高原を飛び出して実習をしてきた。
カラダも疲れているし、4日目はゆったりと高原で過ごす。
午前中は、二つの実習。
ネイチャーゲームとアート。
ネイチャーゲームは目隠しイモムシ。
目隠しをして前の人の腰に手を当てて縦一列につながる。
先頭のイントラが、後ろに連なる子どもたちを引き連れて、高原の中を歩き回る。
時には、小さな岩をよじ登らせたり、ほんの少しだけジャンプさせたり、また座らせて草の感触を味わわせたり、
目を閉じることで、子どもたちのイマジネーションが広がっていく。
高原のあちこちで、小鳥のさえずりとともに、子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてくる。
日常生活で、長時間(この実習ではおおよそ30分)、目を閉じたままで行動することはない。
目隠しを解いた後、どの道を歩いたのかを全員で探す。
嬉々として高原を走り回る子どもたち。
遊びながら、子どもたちの感性がどんどん磨かれていくように見える瞬間だ。
もう一つの実習は、十勝平野を見下ろせる場所からアート。
「見渡す限りのすべてが自分の国で、自由にできるとしたら、どんな世界を創りたい?」
こんな問いかけをして、画用紙いっぱいに絵を描く。
アートの表現の目的は、評価ではなく
「雲がきれいだからこのまま残したい」
「はなのくに」
「自然を残したまま、地下に高速道路をつくる」
「誰もケンカしない国」
「いい気持ちになれる国」
時には、
「戦いの騎士がゾンビと闘って」
いたりする国もある。
アートは、言葉以上にものがたりを語ってくれる。
イマジネーションを育てることは、見方を変えることのできる柔軟性が身についていく。
問題への対処だったり、人間関係、人への思いやりも、このイマジネーションの力が影響する。
何よりも、自尊感情を高め自分を好きでいられるためには、とても大切なものなのだ。
子どもじみた考え
子どもっぽい
と、「子ども」と言う単語を揶揄するように使われることがあるけれど、ボクたちの「心の中の子ども」を追いやってしまうことが、どれほどボクたち自身を苦しめてしまうことか。
たとえそれが非現実的であったとしても、その子どもの心の物語に耳を傾けることは、ボクたち大人のイマジネーションを育ててくれる、とても大切なことなのだ。
午前中の高原実習を終えて、いよいよ午後は、子どもたちが大好きな「サポーターゲーム」
続く
第30回グロースセミナー4日目その1(8月3日)
快晴
今日も暑くなる。
8:00起床、8:20分集合
起床してから集合まで、20分しかないのだけれど、この時間も、子どもたちが決めたこと。
彼らは、目が覚めてから、大急ぎで準備をしてロッジ前まで集まってきます。
ところが、この日は、集合時間に全員がそろわなかった。
5分間チャレンジに使う道具を探している間に、時間になってしまった。
なんてことのない、ちょっとした遅れだし、目くじら立てるほどのことでもない。
でも、グロースはこういったことにも、きちんと目を向けます。
「集合時間にそろわなかった。何が起きていたんだ?」
たとえ事情を知っていたとしても、子どもたちから直接聞きます。
「5チャレの道具がなくて、、、、」
「なくて、どうした?」
「遅れちゃいました。」
「集合時間に全員がそろわなかったという、この状態を創り出したのは誰?」
この問いかけの答えは、通常は道具を探していた「誰か」になる。
グロースでは、この状態を作り出したのは、直接間接関係なく、そこに存在し、同じ目的を持っていた全員。
ここにいる全員の欲しい結果は、「スタッフを含めた全員が、集合時間に集まっていること」ですから、その欲しい結果を作り出さなかったのであれば、その目的に参加していた全員が創り出したことになるわけです。
大昔の、「連帯責任」とは全く違います。
原因追及する「原因論」ではなく、それは何を学ぶために起きたことなのか?と言う「目的論」を大事にしています。
子どもたちは、「自分」と即座に応えます。
自分が創り出したことなのであれば、繰り返さないために何ができるのかに気付くこともできる。
遅れたから、とか、約束が守られなかったから、と言う理由で罰を与えることは一切ありません。
大事なことは、どんなことであれ、そこから学ぶこと。
誰かのせいにしてしまえば、学ぶことはなくなります。
自分のこととして、目の前の問題に取り組むことで、同じ失敗を繰り返さなくなるし、たとえまた繰り返したとしても新たな学びを得ることができるのです。
こういったケースで、一番直面するのは、リーダーです。
自分の責任の範囲が、他の子どもたちとは違います。
だからこそ、多くを学べるのです。
この問題をチームで話し合い、今後二度と繰り返さないために、そして、チームに貢献するために、何ができるのかを、チームの中でお互いに確認しました。
4日目は、体を休めながらのんびり始める予定でしたが、こんな大事な学びから始まることになりました。
朝食の後は、高原の実習です。
第30回グロースセミナー3日目その4
夕食後、ナイトハイクについての話をする。
「これから、今日最後のチャレンジ。みんなも疲れているだろうし、低学年は眠い子どももいる。だから、行きたくなければ、このロッジに残って構わない。」
今回は、低学年対策として、全員参加ではなく、希望者だけのチャレンジにすることにした。
夜も遅いことだし、体力も奪われている。
「自分の考えで、『行く!』と決めた人だけでやる。
森の生きものたちは夜行性で、クマの巣もあるかもしれない。
その中を1時間以上(約2.5キロ)歩きます。
そして、全員無言で。」
この話をしていると、子どもたちの張りつめた緊張感が伝わってくる。
「チームごとに一本のロープを渡します。
全員がそのロープにつかまっていればはぐれることはない。
森は真っ暗です。だから、絶対にロープを離さないこと。
懐中電灯は各チーム一本だけ。
スタッフは、みんなの後ろからついていくけど、サポートはしない。
リーダーは道を知っているけれど、夜の森の道は昼とは全く違う。
迷ったら、みんなで協力して歩く。
ゴールは、樹齢800年のミズナラのご神木。
それでは、このチャレンジをやるかどうか、チームで決めます」
ここまで一気にしゃべった。
あとは、子どもたちに任せる。
静かに話し合いが始まる。
2年生のMSKは昨年は、ロッジに残った。
眠いのもあったのだろうけれど、やはり怖かったのだろう。
今までにも、このチャレンジに腰が引けてしまう子どもは何人もいた。
だから、これだけ低学年が多いから、何人かは残るだろうと、予想していた、、、、
ところが、、、、
全員がやる!と決めた。
ボクは、低学年に、直接、確認した。
目が輝いている。
疲れてはいるものの、意欲は満々だ。
あらためて、ボクたちスタッフの気がひきしまる。
21:40 出発点までバスで移動。
バスの中から、すでに無言にさせている。
そこから、チームごとに無言で出発。
昨年は、ひとチーム迷子になった。
今までにも、道を間違えて、とんでもないところまで行ってしまったチームがいくつもある。
事前に、クマよけのために、スタッフが大きな音や声を出しながら歩いている。
この役割のスタッフも、実はものすごく緊張する。
だから、思い切り大きな音を出し、大声を出す。
これで、動物たちは警戒する。
チームごとに出発する。
30分ほどたって、道のりの半ばで、イントラが声をかける。
「懐中電灯を消して、しばらく森の音を聞いて」
森は、様々な音やにおいに包まれている。
ミシミシと何かが近くを歩く
ケモノの匂いが漂う
ざわざわと木々の葉が揺れる音がする。
木立の合間から見える空には、満天の星。
この星灯りが、森全体を優しく照らしてくれている。
スタッフのボクたちは、一切の灯りなしで、10メートルほど後ろからついていくだけ。
子どもたちからは全く見えない。
だから、結構道を踏み外すし、怖い思いは何度もする。
5分ほど森の中にたたずみ、再度出発させる。
子どもたちの真剣なチャレンジから目を離せない。
遠くから、彼らがひとかたまりになって(実際は懐中電灯の光しか見えないのだけれど)歩くのを見守り続ける。
やがて、せせらぎの音が聞こえてくる。
橋を渡る。
ここでは、よく蛍が見えていたのだけれど、ここ数年は見ることができない。
これも、環境の変化なのだろうか。
牧場わきの道に出る。
ここまでくればゴールはもうすぐそこだ。
「懐中電灯を消して」
イントラの声に従って、光が消える。
最後の15分ほどは、目が慣れてきているので、灯りなしでも歩いていける。
そして、ご神木に到着。
緊張が解かれ、子どもたちはすぐにおしゃべりを始める。
実は、すでにこのご神木は、樹齢800年の命を終え、数年前に雷でその身を横たえている。
それでも、森は死ぬことはない。
このご神木もかつての姿はしていないけれども、その樹幹から新しい命の歴史を始めている。
子どもたちに、かつてここに見事にそびえたっていたみずならの話をする。
そして、チームごとに、樹幹の上によじ登り、みずならを体験する。
今年ラストイヤーのTKHが呟いた。
「初めて来たグロースのナイトハイク。あの時も満天の星だったなぁ。」
感慨深そうに言う彼の心の中に、このミズナラが生きている。
彼の人生の中で、この体験がどんな物語になっていくのだろうか。
この日のすべての実習が終わり、ロッジへ戻る。
今日の一日を、みんな、やりきった!
23:30就寝
明日は8:00起床。
すこっしゆっくり起きることにする。
第30回グロースセミナー3日目その3(8月2日)
台風が過ぎ去りましたが、大きな爪痕を残していきました。
皆様が無事であることをお祈りするとともに、被害にあった方々のお見舞いを申し上げます。
クエスト総合研究所や、子ども未来研究所の本部は、おかげさまで大過なく無事でした。
15:30 中央公園をバスで出発。
士幌高校に向かいます。
移動は、貢さんの会社で持っている古いバスだ。
第1回目のグロースセミナーでも使った、30年来使っているなじみのバス。
運転は、いつも富さんが引き受けてくれている。
16:00 士幌高校の農場で、イモ掘り。
士幌高校も、1回目からずっと農場を解放してくれている。
いろいろなところから体験学習をしに来るらしいけれど、
「裸足で入るのは、グロースだけだなぁ」と、以前先生に言われたことがある。
裸足で畑に入るのは、本当に気持ちがいい。
今年の品種はキタアカリ。
ブランドのジャガイモだ。
この農場は、農薬を使用していない。
高校生たちが、丹精込めて広大な土地を耕し、様々な野菜を育てている。
今年は、冷夏の後に一気に熱くなったおかげで、小ぶりではあるけれど、害虫の被害は少なくて済んだのだそうだ。
子どもたちは、納得するまで、ほり続け、今年も3箱のサンテナーにいっぱいの収穫。
イモ掘りが終わったら、今度は搾乳。
普段は機械で絞っているのだけれど、グロースの子どもたちのために、手絞りを待ってくれている牛がいる。
初めての子どもたちは、おぼつかない手で、恐る恐る絞るものの、勢いよく飛び出す乳に感動する。
ベテランの子どもたちは、両手で絞ることもできる。
この実習も、士幌高校の先生たちの絶大な協力があって、実現できている。
いろいろな人たちの手で、このグロースセミナーは大切にされている。
本当にありがたいことだ。
山ほどのキタアカリと、たっぷりの搾乳体験を終えて、この3日目の後半の実習へと続く。
ヌプカに戻ったら、子どもたちに伝える。
「今夜の夕食は、子どもたちで作ります。みんなで収穫したキタアカリを使って、チームごとにおいしいカレーを作ってください!いいかな?」
おーーーっ!と声が上がる。
「時間を決めてくれ」
今までの経験から、1時間半前後。
ところが、今回の子どもたちが決めた時間は、なんと、2時間。
「おいおい、それは時間のかけすぎだろう」と心の中で思いながらも、子どもたちの決めたことは尊重する。
出来上がるまで、サポーターも、イントラも、もちろんボクも一切手出し口出しをしない。
各チーム、リーダーを中心にいろんな工夫をして作る。
低学年の包丁遣いにヒヤッとしたり、焦げ付きそうで心配したり、チームで協力する姿に、ニンマリしたり、、、、
そして、ちょうど2時間たった20:40。
全員座って、「いっただきまーーーす!」を叫んで、食べる。
うまい!
本当にいつも感激する。ほぼ同じ食材しか使わないのに、各チームことごとく味が違う。
人数分よりもずっと多めに作っているはずなのに、あっという間になくなってしまう。
(ちなみに、スタッフがこっそり作ったカレーは、たくさん残ってしまった、、、、)
サポーターが用意してくれたデザートを食べ、いよいよ3日目最後の大イベント、ナイトハイクの実習。
続く
第30回グロースセミナー3日目その2(8月2日)
関東直撃の台風が迫ってきております。
どうやら私が5-6歳の頃以来の強力な台風のようです。
どうぞ、皆さま命の安全確保を!
お互いさまに!!
マウンテンバイク(MTB)を選ぶ。
さらに、ヘルメットとひじ当てひざ当てを装着してから、駐車場で練習を開始する。
子どもたちが、きちんとブレーキを握れているかどうか、
ハンドルをうまくさばけているかどうか、
止まれ!と言われた場所で止まれるかどうか、をチェックする。
初参加組は、道路に出て、下り坂を走らせて、ボクが直接チェックする。
下り坂なので、ペダルはこがない。
スタートさせた後に、
「はいブレーキ!」
「ブレーキ放す!」
これを繰り返しボクが叫んで、その通りに走ってもらう。
懸念していた1年生は順調に、みな言われた通りブレーキを握り、放し、そして制動できている。
ところが、2年生のKSR。
去年は、身長が足りないうえに、手が小さくてブレーキを握れなかった。
ものすごく楽しみにしていたのに、自転車は得意なのに、ヌプカに用意してあるMTBは彼女には大きすぎたようだった。
悔しい思いをしたKSRは、満を持して今年に臨んだ。
ところが、、、、
今年も、ブレーキをしっかり握れない。
「止まれー!」の合図で制動できない。
KSRは必死にブレーキを握っているのだけれど、止まれないから結局足ブレーキをすることになる。
「足はペダルの上!」と叱られる。
何回も何回もチャレンジしたものの、しばしばの「合格」はもらえなかった。
「KSR、ブレーキが握れなければ乗せられない。残念だろうけど、応援だ。」
目にいっぱい涙をためている。
チャレンジさせてあげたい気持ちはやまやまだけれども、安全のためにもやらせるわけにはいかない。
数年前に、こんなことがあった。
やる!と決めてチャレンジしたものの、坂道を目の前にしてペダルに足を乗せられない。
ブレーキを握ったまま手を離せない。
チーム全員でサポートし、ボクやイントラが必死にサポートした。
感心したのは、その時のチームが、文句ひとつ言わずに、ずっと励ましながらそばにいてくれたこと。
あの時は、約5キロの下り坂に2時間以上かかった。
そんなこともあったので、安全のためには、MTBではないチャレンジをすることになる。
KSRは、乗りたくて仕方がないのに、さぞかし悔しかっただろう。
「KSR、悔しいな。でも、今年も応援だ。みんなを力いっぱい応援してもらえるか?」
KSRは、泣きながら大きくうなづいた。
10:30 いよいよ、チームごとに出発。
ボクは、1年生のHKのサポート。
1年生には、誰かしらサポートがマンツーマンで就く。
1年生のHKは、何とかブレーキを握れるものの、長い坂道をどこまで頑張り切れるかわからない。
少しの気のゆるみで、大きなけがにもつながるMTBだから、こちらも必死だ。
「ブレーキ!」
「ブレーキはなして!」
「足出すなー!」
「しばしばを追い越すなー!」
全身に力を込めてブレーキングをし、またブレーキを話す、この繰り返し。
怒鳴られながら、HKは、なんとか約5キロを降り切った。
(後日感想文に、この時のしばしばがものすごく怖かった、と書いてあった(^^)
他の1年生たちも、無事に坂を降り切った。
ここまでくると、少しだけホッとする。
それでも、まだ気は抜けない。
まだ、上り坂や、長い下り坂、そして、砂利道が、待っている。
1年生の女子SRAも、TMMは、気持ちよさそうに、思った以上に順調に降りて行った。
休憩ポイントで、全チームが集まる。
そこで、出発前に泣いていたJRAを見つけた。
満面の笑顔だ。
「JRA、ここまではどうだった?」
「楽しーっ!」
「そうか、何が一番楽しかった?」
「くだりざか!」
なんと、あれだけ怖がっていた下り坂が一番楽しかったと!!
怖かったものを乗り越える。
ボクたちの日常に、どれだけそんな機会があるだろうか。
経験から、うまいこと回避したり、無理だなと思えば、先送りするか、あきらめる。
でも、JRAは、必死に向き合った。
終わってみれば、なんてことなかった、で済んでしまいそうなことだけれども、これがどれほど大きなことだったことか。
JRAは、そんな達成感や喜びをしっかりと味わえたようだ。
ボクはJRAに、何よりもあきらめずにチャレンジしたことを、心から承認した。
休憩ポイントの後は、長い道のりを走り、最後に試練の砂利道だ。
ハンドルがとられ、ペダルをうまくこげない。
しまいには転倒する。
低学年にとっては、最後の最後に待っている辛い時間だ。
SOUは転倒し、HRTは続ける気力がなくなる。
RKは、走行が危うく、ついにオヤジにストップをかけられた。
疲労もあるし、転倒もして、気持ちが弱気になっている。
RKは、続行は危険と判断して、軽トラに乗せた。
SOU、HRTは結局やり切った。
砂利道が終わり、最後のゴールに向かう道で。
貢さんは、軽トラに乗せていたRKと、KSRを、MTBに乗せた。
チームと一緒にゴールさせりために。
それだけでも、二人にとってはうれしい体験だったようだ。
満面の笑顔で、ゴールしてきた。
走り切った満足感で、お互いを承認しあい、このゴールの中央公園で弁当を食べた。
しばしの休息。
3日目は、まだまだ続く。
第30回グロースセミナー3日目その1(8月2日)
3日目朝、快晴
今日も暑くなりそうだ。
6:30起床後、体操と5分間チャレンジ。
朝食をとり、この日のプログラムを伝える。
リピーターの子どもたちの多くが、一番の楽しみにしているマウンテンバイク(MTB)だ。
ワーッ!と歓声が沸く。
高原から、約30キロの道のり。
牧場を見ながら公道を走り下りる。
下り坂があれば、きつい登坂もある。
見渡す限りまっすぐに続く、十勝ならではの道もある。
ロッジからの最初の5キロは急な下り坂。
この坂が、低学年にとっては、恐怖の5キロ。
とても牧場を見る余裕などはない。
ブレーキを握りっぱなしだと。ブレーキを握る力がなくなってしまう。
スピードが出て、ハンドルがぶれ、MTBを止められなくなる。
最後は、足を出して、足ブレーキで止まろうとしてしまう。
今までに大きなけがはなかったものの、急ブレーキでMTB前転ごと前転したり、スピードを出しすぎて、転倒したり、と何度もヒヤッとさせられたことがある。
子どもたちはマウンテンバイクのチャレンジをやるのかどうか、チームごとに決める。
全チーム、やる気満々であっという間に決まった。
が、決まった後になって、JRAの表情が曇っていく。
全員が、ロッジに準備に出て行った後に、JRAを呼び寄せて話をする。
「JRA、どうした?」
泣いているJRAは何も答えられなくなっている。
「怖いのか?」
うなづくJRA。
「で?どうしたいんだ?」
「やりたい、でも、、、、、」
「そうだよな、2年連続で怖くてできなかったんだ。今年こそって思えば思うほど、また怖くなっちゃうかもなぁ。
でも、やるか、やらないかは、JRAしか決められない。だから、JRA,お前が自分で決めるんだ。」
JRAは、1年目、MTBがものすごく楽しみと言いながら、恐怖でペダルを踏み出せなかった。
2年目の昨年も、「今年こそやる!」と言いながら、結局は踏み出せなかった。
だから、今年への意気込みは相当なものだっただろうと思う。
誰にとっても、恐怖を乗り越えようとするにはとてつもない勇気がいる。
体操の選手は失敗したらすぐにやり直しをするという話を聞いたことがある。
時間を空けてしまうと、恐怖でその技ができなくなってしまうらしい。
JRAは2年間もその恐怖と一緒にいる。
震えるのも仕方ない。
こんな時に、大人のボクたちにできることは何だろうか。
励ましたり、力づけたし、叱咤したり。
でも、それは、必ずしも自立にはつながらない。
自分がその立場で、いろいろ言われたら、
「うるさい、黙ってろ、」と、叫ぶかもしれないし、
「やっぱりできないよ、今度にするよ」などと、泣き言をいうかもしれない。
しばらくして、涙を拭いて、はっきりと「やる」と言って、準備をしにロッジに戻った。
結局、JRAは自分で決めた。
ボクたちにできることは、ボクたちの望むことをやらせることではなくて、子どもたちが自分で決めることのできる、環境を提供してあげることだけ。
そして、何を決めようとも、そのことをいったん受け止めてあげることなのです。
続く